書籍「小春のあしあと」著者、長江さん:21日は十五夜。月見のとき、何を食べますか?

十五夜のとき、中国で食べるのは
秋の月見と言えば?「ススキと団子!」
そう答える日本人は多いのではないでしょうか。秋の実りを祝い、感謝を捧げる行事として庶民の間で定着していると思います。でも、私が育った文化では、秋の月見と言えば「月餅」(ユエビン)なのです。
お月見とは一般的には旧暦8月15日の満月を指し、「十五夜」とも言います。一年でいちばん澄んだ月が見られるそうです。涼しげな秋の夜に、煌々と野を照らす美しい月を愛でながら、短歌を詠む古人の姿が目に浮かぶようです。
日本の小学生がよく暗唱する百人一首の中に、月を詠んだ有名な短歌がありますね。
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも
「空を仰ぎ見ていると月が出ている。あの月は、故郷である春日の三笠山に出ているものと同じなのだなあ」という意味だそうです。
奈良時代の文人の阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)が遣唐使(唐への国費留学生)だった19歳の時に詠まれたそうですから、きっと、月見文化を日本に伝える一役を買ったのでしょう。
もともと日本にも十三夜のお月見の習慣があって、それと融合し受け入れられたとも言われています。
一家団欒の日でもある
2021年の十五夜は9月21日(火)です。中国では、この日は一家団欒の日とされています。国民的な祝日として休暇があり、可能な限り親元に帰省し、家族で祝うのです。
帰省土産にはご当地の有名店の味や珍しい味の月餅を買って帰り、家族や友達と分け合います。

そのためか、この季節になると、店という店が月餅で溢れかえっていますが、東京に住んでいると、本場の月餅はレアものになっています。
8月末、そろそろ時期かなと思って、都内にある行きつけの中華食材店に行ってきました。すると、中国各地で製造された見た目も材料も食感も異なる「ご当地月餅」がずらりと並んでいました!
私が特に好きなのは、クルミやピーナツ、ヒマワリやカボチャの種など五種類のナッツが入っている「五仁」味です。これは私が育った東北地方の思い出の味。他には南部でよく食べられている塩漬け卵黄味や、定番の蓮の実味、ちょっと変わったバラ味も好きです。
中国国内では、ご当地月餅の商戦が加熱気味で、近年、アイス月餅、抹茶味月餅、とろーりカスタード入り月餅、その他、思いもよらないいろいろな材料で作られた月餅も売られるようになったそうです。
でも私には昔から庶民が慣れ親しんだ味がいいのです。
今年も持てるだけ買ってきて、冷凍保存し、十五夜から大事に、少しずつ味わうつもりです。月より団子、じゃなくて、月より月餅!
秋の実りと古(いにしえ)から綿々とつながる文化交流の恩恵に感謝しながら。


★遣唐使阿部仲麻呂についてはこちらをご参照ください。
★月餅文化については東京にある中国文化センターのウェブサイトをご参照ください。
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