料理を通じて日本×ロシア交流「“おいしい”に国境はない」日露フードオーガナイザー中川亜紀さん

更新日:2021年12月24日

ICBC Soカフェ会員の長江春子さんからのご紹介で、日露フードオーガナイザーの中川亜紀さんからコラムが届きました。


ロシアで日本料理を教えたり、日本でロシア料理を教えたり、料理を通じて日本とロシアの文化交流をされています。

ロシア料理を楽しめるお店も紹介してくれました。

 

コロナ禍でも大好きなロシアをあきらめない日本人と

大好きな日本をあきらめないロシア人


日本とロシアの交流、料理、文化
コロナ前のサンクトペテルブルグでの和食ワークショップ

駐在でたまたま行ったロシアにどっぷり惚れ込む


コロナ禍が世界を分断する以前、つまり自由に飛行機に乗って行きたいところに行っていた頃、私は年に2回くらいのペースで、ロシアのいくつかの都市を訪れていました。


もともと私は2009年から2012年まで、家族と3年間モスクワに駐在していました。その当時のロシアの食レベルは、まさにこれから伸びようとする黎明期で、ロシア料理を学んでみたいと思っても、料理教室という文化すらありませんでした。

そのため私は料理上手な現地の女性を見つけて、自宅で料理教室をお願いしていました。


またそれとは逆に、駐在中に自宅に来ていただいたロシアのお客様を和食でおもてなしする際に、ロシアのお客様が和食に興味を持ってくれて、いろんな食材やお料理についてお話しすることもありました。

日本とロシアの交流、料理、文化
コロナ直前のモスクワでの和食ワークショップ

当時、ロシア語はせいぜいアルファベットが分かる程度でした。仕事上では英語で済む夫とは違い、生活でやり取りしないといけないロシア人には英語の分かる人は多くなく、幼稚園、スーパー、交通機関などで、ロシア語を使う必要がありました。

子供たちが幼稚園や学校に行っている間に、家庭教師の先生について、34歳でゼロから新しい言語に挑戦していました。


少しずつロシア語を話せるようになると、一見ぶっきらぼうに見えるロシア人が、ふと笑顔になってくれたり、子供を連れていると、見知らぬおばあさんが「もうロシアでは帽子をかぶらせないと頭が冷えるよ! お母さん、子供3人連れてえらいね、がんばって!」などと声をかけてくれたりしました。


「ロシア人は笑わない」とよく言われます。「人見知り」と言ってもいいかもしれません。一旦懐に入ってしまうと、かつての日本を彷彿とさせるような、温かい交流が日常にある、それがロシアでの暮らしでした。

日本とロシアの交流、料理、文化
和食ワークショップをロシアではじめた頃のサンクトペテルブルグでの和食教室

帰国後、脱専業主婦でますますどっぷりロシアにハマる


そのような交流を重ねながら3年間の駐在を終え、ある程度ロシア語を使えるようになって帰国。私は、専業主婦をやめて、仕事を始めることを決心しました。理由はいくつかありました。

日本とロシアの交流、料理、文化
都内のクッキングスタジオでのロシア料理クラス

1つには、結婚前に言語の専門を活かして仕事をしたかったこと。子供たちがようやくみんな小学生になるところだったので、脱専業主婦をするタイミングでもありました。


また、ロシアでは男女が同じように仕事をするのが当たり前。バリバリと仕事をしながら、家事も育児もこなし、しかも女性としても生き生きと人生を謳歌するロシア女性を現地でたくさん見て、感銘を受けました。


2つ目として、3人の幼い子どもを連れて駐在していたとき、現地のロシア人の方がとても親切にしてくれたおかげで、とても充実し、心の交流のできる生活ができました。

自分も同じように日本で暮らす人の助けになりたいという気持ちもありました。


3つ目は、食を通しての交流のすばらしさを実感したからです。外交上の交流や経済交流は、夫が熱意を持って取り組んでいるのを見ています。まだまだ難しい日露間ですが、少しずつでも友好関係を築きたいという思いは、私も同じです。


いかに政治的、経済的な関係が難しくても、美味しい食べ物の話となると、その国の悪口を言いたくなる人はいない、というのが私の感触です。


「日本大好き」「ロシア大好き」がつなぐ交流


前述の2つ目の理由から、帰国してすぐに始めた仕事は、都内の公立幼稚園・小学校・中学校で学ぶロシア語母語児童のサポートでした。


あまり知られていませんが、多くの自治体がこのような制度を取り入れています。

日本語の学習に困難がある児童に対して、その子の母語が話せるサポーターが学校に派遣されて、授業や日本語のサポートを無料で行っています。保護者会や先生とのやり取りの通訳業務も含みます。


幼いながらに日本の学校や言語、文化に馴染もうとがんばる子供たちを見ていると、私の子供たちも、ロシア語がわからない中で幼稚園で必死にがんばっていたんだな、という思いで泣けてきます。

そして、うちの子たちを応援してくれた人たちのように、私もロシア語母語の子供たちを応援したい、という気持ちが強まりました。


もともと言語分野の専攻だったこともあり、子供の日本語講師だけでなく、日本で暮らすロシア人の方々の日本語講師も始めました。

学問としての日本語ではなく、日本でより充実して暮らすための日本語です。


また、彼らが日本の文化を気に入ってくれて、もっとその文化を理解して愛したいと思ってくれている気持ちにも触れ、そのための日本語を教えることができるのを幸せに思っています。

日本とロシアの交流、料理、文化
モスクワの中学生とのオンライン日本語レッスン

逆に、祖国の文化と違う日本の習慣を理解できず、衝突やトラブルが起こる中で、ただ反発するのではなく、理解し歩み寄りたい、という気持ちも彼らにはあり、その理解を助けるための日本語でもありました。


私自身がモスクワでロシア語を身につけるほどに、日本人が理解し難いロシア独特のメンタリティに親しんでいきました。ここでも日本語を身につけるごとに、日本人とロシア人が歩み寄ることができたらいいな、と思いました。


そして、コロナ禍がやってきて、リアルな交流が大好きなロシア人たちもオンラインでの交流や業務に慣れてきました。そうなれば、これまで距離が問題になっていた人たちにも、日本語をオンラインで教えることができるようになりました。


そして、日本での生活のための日本語だけではなく、これから日本に関わって仕事をしたいと思ってくれているロシアの若者、学生さんたちも生徒として加わりました。


さらには、十分に日本語を使えるけれど、もっと日本文化を理解したい、と日本文学に興味を持っている人達のために、オンラインでグループ読書会講座もスタートしました。


そのような参加者は世界のいろんな都市に存在しており、時差を考えて、できるだけ多くの人が参加できる時間帯で開催しています。


現在、そのようにして広がった参加者や生徒さんは、国内は都内に限らず富山、関西などロシア人在住者が比較的多いエリアから。ロシアは、首都のモスクワを始め、西のサンクトペテルブルク、東のウラジオストク、さらにイスラエルやドイツまで。


気づいてみると、コロナ禍以前よりもっと、さまざまな環境のロシア語話者の方たちと多様で豊かな交流ができています。


「おいしい!」が乗り越えるいろいろ


帰国後、仕事を始めた3つ目の理由として挙げていた、食を通して交流を深めたいという夢。これは、実は最初は、日本におけるロシア料理の普及を目指したところから始まりました。


帰国後、フードビジネス・コーディネータースクールに通い、知識と資格を身につけました。同時にロシア人が働くロシア料理店で修行した後、とある新しいクッキングスクールのオープンに誘っていただき、ロシア料理教室を担当させてもらうようになりました。

日本とロシアの交流、料理、文化
都内スタジオでの、在日ロシア人向けのおせち料理レッスン(コロナ前)

ロシアに興味のある日本の方々に、私が現地で覚えたロシア料理を伝授させていただきながら、一般的な印象とは異なる、ロシアの真の姿を語らせていただくこともありました。


そうしているうちに、日本在住のロシア人の女性たちから、「家族に和食を作ってあげたい、ロシア語で和食を習いたい」との要望をいただき、今度はロシア人対象の和食教室を開催するようになりました。


さらに、数年経って格段に食レベルが上がりつつあったモスクワでは、新しい料理スタジオがどんどんオープンし、そこで和食教室を開催させてもらう機会を得られるようになりました。

日本、ロシア 料理で交流
モスクワ赤の広場近くの料理スタジオで抹茶チーズケーキのワークショップ

翌年にはモスクワだけでなく、サンクトペテルブルク、さらにはウラル地方の都市チェリャビンスクなど、日本人を見たこともない、というエリアでも交流事業に参加させてもらうようになりました。


和食レストランも急激にレベルが上がりつつあるロシアでは、レストランのメニューコンサルティングや、シェフたちの和食研修のオーガナイズの要望もあり、食に関わることで多くの交流が得られました。


そしてコロナ禍。だからこそ、オンラインでつながりながら、同時に料理をする、オンライン料理教室もスタート。リアル教室では大人しい人はただ見ているだけ、となりがちですが、オンラインだと、それぞれが自宅で画面の中の講師を見ながら、すべてのプロセスを自分でこなさなければいけません。

日本とロシアの交流、料理、文化
コロナ禍、オンラインでのお弁当ワークショップ

講師は、その様子を見ながら、「もう少し強火で」「そろそろ味見してみてください」など、オンラインならではの指導になります。

数千キロ離れたそれぞれのキッチンで、同時に同じ料理ができあがったときの感動は、リアル教室より大きいとも言えます。

日本とロシアの交流、料理、文化
モスクワでのママたちへのお弁当ワークショップ

オンラインだからつながった世界中の「日本大好き」


このようにして、今や分断するものは時差だけです。モスクワやペテルブルクは日本と6時間差。西ヨーロッパ在住のロシア人の生徒さんもいますが、こちらの夜間にあちらの午前、という感じで調整できます。


文学講座も、日本時間の夜21時半、ロシアでは15時半や17時半など(都市によって時差が違います)、いろんなところから日本好きが集まって、毎月いろんな文学作品を原書で読んでいます。

最近は、百人一首も読み、みなさんがオリジナル短歌を作ったりもする楽しいクラブになっています。


「外国や飲食に関わるお仕事なので、コロナ禍で大変でしょう」とよく言われます。確かに旅行業の方々など、ご苦労されている方も多くいらっしゃいます。しかし、私が携わっている言語の仕事と料理の仕事、どちらも《交流》であることに主眼をおけば、インターネットを使えばなんとかなっています。


せっかくコロナ直前にロシアへの直行便の便数も増え、空港の利便性もよくなったのに、残念ながら、日露間の行き来は難しい状況が続きます。


でも、私が虜になってしまったそんなロシアを国内で味わいたい!と思っておられる方。日本にいながらでもロシアを体験できるところやものはあります。


そこで、2年間のロシア料理ロスで、ロシアが恋しい時に重宝しているおすすめのお店をご紹介します。


【日本でロシアを味わえるお店ベスト5】


1,ロシアイケメン、美女に会える、料理も本物、吉祥寺『カフェロシア』


2,ロシア駐在経験者がノスタルジーを感じることができる隠れ家、カフェ&バー中目黒『ノスタルジー』


3,大阪在住のロシア人家族もお気に入り。京都の老舗レストラン『キエフ』


4,ロシア人が祖国を離れても食べたいお菓子『シローク』


5,ヴィクトリアさんがコロナ禍で開店し在日ロシア人の救世主となっているロシア食品専門店 銀座『赤の広場』



★中川亜紀さんの《ピロシキとロシアスープの教室》、ロシアと中央アジア、コーカサスの料理を学ぶクラスも、コロナ禍でお休みしていますが、2022年から徐々に再開予定。

ベターホーム協会の料理教室では、注目のジョージア料理教室も不定期で担当しています。お知らせ等はこちらへ。