アート・演劇を用いて多文化共生を目指す:コーディネーター養成講座@東京芸術劇場

更新日:1月7日

アートと多文化共生


最近、アートのアプローチから多文化共生社会を目指す実践が、さまざな形で行われている。絵を描く、ダンス、演劇など、さまざまな手法がある。


筆者は、2015年に日本で先進的な演劇ワークショップを実践している田室寿見子さんと出会ったことから、このような手法があることを知った。


その後2016年には、田室さんと、朝日大学の松井かおり先生がコーディネーターとなって行われた演劇ワークショップ合宿を取材した。(@岐阜県可児市、主催は岐阜県可児市のNPO法人可児市国際交流協会)


言葉も文化も違う多様な高校生が集まり、さまざまな思い出や今後やりたい事などを、体で表現していた。ワークショップを通じて、彼らが次第にうちとけていく様子は、今も鮮明に覚えている。


 ↓ そのときの様子の動画

(動画:NPO法人可児市国際交流協会)


2016年岐阜県可児市で行われた演劇ワークショップ
2016年岐阜県可児市で行われた演劇ワークショップ


2016年岐阜県可児市で行われた演劇ワークショップ
2016年岐阜県可児市で行われた演劇ワークショップ

シアター・コーディネーター養成講座「多文化共生・基礎編」を開催


その後も田室さん、松井先生は活動を進めていたが、2020年からはコロナ禍で対面での活動は難しくなっていた。


少し落ち着いてきた2021年11月から2022年2月、田室さんが勤務する東京芸術劇場(豊島区西池袋)で、シアター・コーディネーター養成講座「多文化共生・基礎編」が開催されている。

アートを用いた多文化共生社会を目指す実践に興味を持つ人向けの講座だ。

詳細はこちらへ 


ちなみに、シアター・コーディネーターとは、「劇場と社会の間に立って、両者をつなぐための企画を考えたり調整したり、発信したりする人たちをイメージした名称」とのこと。(同講座のチラシより)

講座は全6回で、多文化共生とアートについての概論、各地の活動紹介などが行われた後、受講者は実際にアートを用いた多文化共生を目指す企画案を作っていく。

2022年の2月に行われる最終会では、企画発表が行われる予定だ。

シアター・コーディネーター養成講座
シアター・コーディネーター養成講座に集まった参加者

「多様な人が素敵だった。救われているのはマジョリティの方」


シアター・コーディネーター養成講座に集まった参加者
プレゼンする田室さん

2021年12日18日、筆者は第4回講座を見学した。同講座では、演劇ワークショップを実践し広めている田室さんと、同活動を実践研究してきた朝日大学教授の松井先生がプレゼンした。

 

以前、筆者が取材した可児市の合宿の説明もあり、懐かしさと同時に、改めてアートを用いたワークショップの素晴らしさを感じた。


田室さんは可児市の海外ルーツの高校生と、愛知県にある不登校の多い学校の高校生を対象に、演劇ワークショップを開催したこともある。さまざまな試みをしながら、演劇の手法を用いたワークショップを行っていった。


演劇ワークショップの面白さについて、田室さんは次のように語っていた。


「違う立場で課題を抱える子が交じり合うととても面白いんです。学校も親も嫌だった子が、海外ルーツの子どもの悩みを聞いて、自分のことを振り返ったり。お互いに新しい視点に気が付いたりします」


さらに質疑応答では、田室さん自身が外国ルーツの人たち向けの演劇ワークショップを続けたわけについて話していた。


「自分も生きづらさを感じていたときがあった。演劇ワークショップをやっていると、こうしなければならないという枠組みがないことが救いだった。多様な人が素敵だった。かわいそうな人たちではなく、救われているのは、時にマジョリティの方だったんです。彼らとのギャップに面白さがあった。自分の中でときめくものがあった」

シアター・コーディネーター養成講座に集まった参加者
プレゼンする松井先生

予想外の化学反応が起きる


また、松井先生も大学教育の中のやりづらさを感じていたときに、演劇ワークショップに出会い、興味を持ったという。

演劇ワークショップの活動から、新しい教育の在り方を模索していると話していた。


松井先生は多様な言語・文化の背景を持つ青少年と大学生が参加した劇づくりなどのワークショップについてプレゼン。最後に、演劇ワークショップの発表本番中に起きた出来事を紹介していた。


学生が感想を話すうちに、最初は共通語の英語で語っていたが、途中から母語(ベトナム語など)で語り始めた。日本の学生は、故郷の方言を使って個人的なことまで言及していた。その様子は、ビデオでも流された。

ワークショップで周りの人たちと緩やかな関係ができたことで、より自分を開示できるようになったのだろう。


このように演劇ワークショップでは、予想外の化学反応のような出来事が起きる。


多文化共生を目指す活動というと、難しく考えがちだ。多文化共生とはこういうものだという答えも正解もなく、日本では誰も経験したことがないからだ。


一方、アートにも答えはなく、枠を壊して、新しい表現を創造していく。この枠のないアートを用いる活動は、自由で楽しい多文化共生社会を目指すための一助になるに違いない。


朝日大学の松井先生は、著書「『ドキュメンタリー演劇』の挑戦」(成文堂)で次のように書いている。


「生活習慣や言語、宗教思想が異なる人同士が摩擦を感じながら社会の中で共存するのはたやすいことではありません。(中略)

異なる言語・文化背景を持つ人たちとどのようにしたら対話を続けることが可能になるのでしょうか。そういうときにこそ、芸術の力が有効であることを、人口10万人の地方都市(岐阜県可児市のこと)が始めた市民共同劇「多文化共生プロジェクト」(前述の岐阜県可児市の演劇ワークショップなど)が教えてくれています」。


(取材・まとめ みらひらナビ いとう啓子)


<書籍紹介>

「ドキュメンタリー演劇」の挑戦、成文堂、 松井かおり(編著) 田室寿見子(著)

演劇ワークショップでつながる子ども達 多文化・多言語社会に生きる、成文堂、

 松井かおり(編著) 田室寿見子(著)