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書籍「誰を生きている」の昆野さん「小田急線で痴漢を目撃!①そのとき女性は?乗客は?」

 3年ほど前のある日、19時過ぎの小田急線下りで新百合ヶ丘に向かっていた私は、電車内で痴漢を目撃してしまいました。


 車内中央付近に立っていた私が、成城学園駅を過ぎた辺りで何気なく左手の方を見ると、20代半ばの女性の後ろに男がピッタリとくっついて、男の黒い手が女性の左腿の辺りを触っています。  女性はうつむいたまま目を閉じていました。

 連れの男かな?と一瞬思いましたが、私は女性の表情から違和感を抱き男の方を見ました。

 男は小柄で色黒の20代前半くらいで、帽子を被っていました。


 連れではなさそうだな。  痴漢か・・・。

 そう思ったのは多摩川の橋に差し掛かった頃で、橋を渡るとすぐに登戸駅に着きます。

登戸駅に着く直前に女性に声を掛け、ドアが開いたらすぐに周囲に声を掛けて駅員を呼んでもらおう。


 そう思いながら男の周りを見渡すと、もう一人色黒の男と目が合いました。

 グルかな?

 一瞬私はそう思いましたが、私の顔を見た途端もう一人の男は、こりゃまずなと思ったのか急に気弱な顔になり、自分は関係ないというように背を向けてしまいました。


 単独犯か・・・。悪ふざけでやっているのかもしれないけど、ちょっと甘いんじゃなかな。  そう思って再度女性の方を見ると、なんと女性は気丈にも、自分のスマホで左腿にある男の手の写真を撮りました。

 カシャ。

 その直後に私は手を伸ばして、女性の肩を軽く叩き「大丈夫ですか?」と尋ねると、苦しそうな顔をして黙ったまま首を横に振りました。 「駅員を呼びましょうか?」と聞くと、「お願いします」と声を絞り出すように言いました。


 その瞬間、女性は左手で後ろの男のTシャツをぎゅっと掴みました。 すると、男は呆れた顔で笑っていました。


 図々しいヤツだな。  混雑している車内の中央付近にいた私は、電車のドアが開く直前に「駅員を呼んでください、痴漢です」と大声で叫びました。

 ドアが開きドア付近の乗客が流されるようにホームに出ていくと、女性は男のTシャツを強く掴んだままホームに出て行きました。

 私は、続けて大声で4回、5回と叫びました。

 ところが乗客は誰も反応しません。  一度ホームに出て戻って来る乗客も多くいましたが、まるで何もなかったかのような顔をしています。

 唖然。  何なんだろう、この人間たちは・・・。


 私の大きな声が聞こえなかったとでも言うのか、誰も痴漢に気づかなかったとでも言うのか、見て見ぬふりをしておいた方がいいということか、関わりたくないということなのか。

 大勢の人たちの“不甲斐ない態度”に、私は怒りを感じていました。


 まだ車内にいた私は、窓越しにホームを見ると、女性は男のTシャツを強く掴んだまま、近くにいた駅員に助けを求めていました。

 一方の男は、オレは何もしてないのにといった態度で相変らずへらへらと笑っています。


 あの女性なら大丈夫だな。

 そう思いながら私は新百合ヶ丘で下車し、駅員室に向かいました。


 ‥‥つづく


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