Interview:東京足立区で地域包括ケアシステムを構築中:あだち子ども支援ネットの大山光子さん「”ごちゃまぜ”を楽しんじゃえ」
更新日:2022年1月17日
東京の下町、足立区で20年以上前に、子どもや地域の人向けの居場所づくりを始めた大山さん。子どもたちを取り巻く課題に直面しながら、支援活動を広げてきた。
2018年には、仲間たちの任意団体を(一社)あだち子ども支援ネットとして法人化。子どもを取り巻くさまざまな支援団体を連携するネットワークづくりも本格化させている。
ざっくりいうと
●孤立した団体をつなぐ
●先に進むための連携
●相性が悪くても“ごちゃまぜ”にして
●「変だね」って言い合う
あだち子ども支援ネットの大山光子さん

孤立した団体をつなぐ
地域にはさまざまな市民団体がある。足立区にも、子どもを支援するための団体は多い。
しかし、大山さんは、それぞれの団体が孤立していて、連携していないと感じていた。
「団体を作っても、旗を振る人が仕切ってしまい、どうしても閉鎖的になる」
(書籍「インタビュー 足立の子ども支援」上田隆著より)
行政にネットワークづくりをお願いするも断われると「自分たちでやってみよう」と一念発起。さまざまな市民団体が連携できるネットワークづくりを開始した。
「子どもたちの現状を見ていると、やっぱり背景にある家族、家庭生活のバランスが崩れていることに原因がある。しかし、『家庭』全体を取り上げる団体は意外にない。『家族』丸ごとを焦点にした活動をしたい」と公表すると、いろんな人が集まったというわけです」(書籍「インタビュー 足立の子ども支援」上田隆著より)
2020年よりさまざまな団体をつなげる「Adachi ちゃりネット」プロジェクトという活動をスタートさせる。
そして、子どもの学習支援、地域包括支援センター、子育て支援団体、障がい者支援団体、ひとり親、ステップファミリー、中途養育家庭、外国籍、LGBT、発達障害などの支援団体、環境保全に関わる団体など、多様な団体をネットワークでつないでいる。
同プロジェクトでは、つながった団体と共に、ヤングケアラー、不登校、生きづらさを抱える子ども達の支援などについての勉強会、情報交換会などを行っている。

先に進むための連携
なぜ団体の連携が必要だと考えたのか?
それは、大山さんが20年以上前から地域の居場所づくりを行なってきたことに関係している。
「子どもたちは自分の持っていないものを持ちたがる。愛、綺麗な体・顔、頭がよくなりたい…。やりたいことを叶えるため動いていくわけだけど、いろんな出会いは大事なんだよね。そのための居場所は必要なんです。
人や物に出会うために居場所として子ども食堂が必要で、でも、だんだんとひとつの所では満足しないようになる。
そのときに、他にもこんなところもあると言って、他のところとつながっていて、情報が流れてきたらいいと思う。
そのために連携が必要で、子どもたちのキャリア教育とかは、行政や他の分野の団体にとか。自分たちが持っている情報では間に合わなくなったとき、前に進ませて発展させるためには“つながり”が大事なんです。
自分のところの情報だけだと足りなくなってくるから、アンテナを張らないといけない。教育、福祉、保護とか…。どこに相談したらいいのかってやっていたら、よろず相談になった」。


相性が悪くても“ごちゃまぜ”にして
そうはいっても、現実を考えると、違う団体同士が連携することは、意外と難しい。やり方が違う、お金の問題、さらには、リーダー同士の相性の問題もある。
それも含めて「“ごちゃまぜ”にして、楽しんじゃえ」と大山さんは言う。
「それぞれが何をやっているのか、目的がはっきり見えていないと連携しても“いいとこどり”“マウントのとりあい”になってしまう。
相性のいい人同士だけで集まってもよくないし、悪い人同士が集まるのも難しい。だから、いろんな人を混ぜこぜにするのがいい。いろんな色があれば、しょうがないと妥協ラインを探そうとするからね。
まっこうから反対意見を言う人にも、アイデアがある。その辺の面白さはある。
相性の悪い人とは、間に人を介して話をつなげる。大人も子どもも混ざって何人かいればなんとかなる。
そうやって動いていると年齢は関係ない。今は、子どもの方が最新の技術、情報を持っているからね。
いろんな人たちがいろんなことをやり始めると、工夫するじゃない。目的があるんだから、ぶつかっている人たちはどうしたらいいのか考える。それを楽しめるようにならないと連携はできないよね。
いろんなことを“ごちゃまぜ”にして、その面白さを感じながら前に進んでいかないと。今、ひとりひとりが多様になってきているから、違いを楽しんじゃえばいいと思うのよ」。


「変だね」って言い合う
さらに、子どもたちのためだけではなく、大人にとっても、多様な人や団体とのつながりが大事だと言う。同じような意見の人だけが集まっても、違う視点に出会うことはあまりない。多様な人や団体との関わりから新しい発想が生まれると、大山さんは言う。
「自分が疎い分野の人と話をすると、分からないことがあって面白い。知らない自分が見えてくる。私も子どもたちにいろいろと言われて、初めて分かったことがあった。
みんな変なところがあって当たり前。自分ではなかなか気づかない。そこを気づかせてくれる人は大事だよね。
いろんな人が集まって、あの人は変だねって言って笑い合えるのが、“ごちゃまぜ”のいいところ。相互刺激を受けるためには、“ごちゃまぜ”が大事なんです」
大山さんのお話を聞いていると楽しそうだが、いざ現実になると不安も多い。
そういうと、大山さんは下町生まれのきっぷのよさなのか、さらっと言った。
「難しく考えないで、絵具を“ごちゃまぜ”にして、毎回いろんな色になっていくのを楽しめばいいのよ」
“ごちゃまぜ”を表わすために手をぐるぐると回しながら、そう言うと笑っていた。
理屈を考えてないで「“ごちゃまぜ”を楽しんじゃえ」
大山さんのような懐の大きさ寛容さが、今こそ必要なのだろう。

追伸:
大山さんの活動は、今もどんどん広がっている。
2021年4月から、足立区立花保中学の地域との連携を深めるコミュニティ・スクール「学校運営協議会」会長にも就任。
学校にNPO法人カタリバを導入したり、キッチンカーを入れたり。さらには、足立区の災害備蓄品の入れ替え期に、中学生のボランティア活動として地域配布をイベント風に行なった。
今は、地域包括の認知症サポーター研修を、中学生主導で開催するように仕掛け中とのこと。中学生とシトラスリボンプロジェクトも広めようとしているそうだ。
それでも熱く情熱的というよりも、ゆるく自然体なところが大山流なのだろう。
「本当は悠々自適の生活をしたいかな。長く続けるつもりはなかったけど、続いてしまったのよ。自分の周りの人たちが楽しく生活してくれたら楽しいじゃない。単純にそれだけかな」というと、また笑っていた。
注:シトラスリボンプロジェクト:コロナ禍で生まれた差別、偏見を耳にした愛媛の有志がつくったプロジェクト。 愛媛特産の柑橘にちなみ、シトラス色のリボンや専用ロゴを身につけて、「ただいま」「おかえり」の気持ちを表す活動。
NPOカタリバ:学校・放課後・地域・行政など、10代を取り巻く様々な環境に、新しい手法で働きかける教育NPO。
(取材:まとめ みらひらナビ いとう啓子、写真:大山光子さん提供)

大山光子さん
<プロフィール>
1950年、東京浅草生まれ。
江戸下町風土の中、幼少のときから靴職人の家で職人と一緒に生活していた。
福祉系の大学に進学するも、紛争に嫌気がさして中退。三多摩地区の障害者作業所で働いた。
その後、子育て、家族の介護を終えると、地域活動を開始。20年以上前から、地域の学習地域センターを居場所として、「食」への取り組みをはじめる。その後、だれでも交流できる居場所にしていった。
2003年、「子ども達と共に『居場所』つくりを楽しみ、大人も子どもも一緒に成長していこう」と、任意団体“がきんちょ”ファミリーを発足。
2013年からは、子どもを基本に社会の本質を見直し、考えていこうと研修、講演、交流会を開催する「こども“ど真ん中”プロジェクト」を始める。
2018年、子どもをはじめとする、市民の支援団体がそれぞれが閉鎖的になっていることを苦慮し、地域の支援団体の協働・共創を目指して一般社団法人あだち子ども支援ネットを設立する。
2020年、困ったときにつながれる、ほっとしたい時に訪ねて行ける、足立区の「ほっとステーション」のひとつとなり、“ちゃり”で軽快に移動する子どもたちを見守り、大人も”ちゃり”で移動するように気軽にゆるやかにつながる「子どもを見守る人のネットワーク Adachi ちゃりネット」プロジェクトをはじめる。
一般社団法人あだち子ども支援ネット 代表理事
任意団体“がきんちょ”ファミリー 代表
任意団体ポルテホール連絡協議会役員
地域健全育成団体役員
足立区立花保中学校のコミュニティ・スクール「学校運営協議会」会長
こども支援士 など